MMAにおけるドーピングをめぐる裁判

UFC200(2016年7月9日)のブロック・レスナー対マーク・ハントの試合は、レスナーが3-0の判定勝ちを収めました。しかし試合後にレスナーのドーピング違反が発覚し、試合結果はノーコンテストに変更されました。ハントは、UFCがレスナーの薬物使用を知りながら自分との試合を組んだことは詐欺などに当たるとして、UFCとレスナーを相手に訴訟を起こしましたが、ネバダ地方裁判所は、ハントの訴えを棄却しました。

さて、判決の結論はともかく、判決理由にはいささか肯けない部分があります。判決では、MMAファイターは、対戦相手がドーピングをしているかもしれないことをMMA固有のリスクとして暗黙的に同意しているとみなされるとしています。ハントが「ドーピングした選手と戦うことは想定していなかった」としているのを、「レスナーがドーピングに違反したからといって、自動的にハントの合意が否定されたことにはならない」と判示しているのです。

この判決を導くにあたって引用されたのが、カリフォルニア州最高裁判決Avila vs. Citrus Community College District(2006年)です。これは、大学野球の練習試合で報復的ビーンボール(故意にねらって投げたデッドボール)を頭部に受けた打者がてんかんの後遺障害を負ったため、大学学区を訴えた事件です。野球のルールではビーンボールが禁止されています。しかし裁判所は、デッドボールが意図的であったとしても、それは野球に固有のリスク(あるいは野球の一部)であるとして、原告の訴えを退けた事件です。

この事件を引用してネバダ地方裁判所は、報復的ビーンボールと同様、もしレスナーが意図的にルールを破ってドーピングを行っていたとしても、そのこと自体は通常のMMAの試合の範疇を超えているとまでは言えない、と言うのです。

あくまで私の個人的な意見ですが、これはちょっと無理スジなように思えます。Avila事件は、ルールでは禁止されていても暗黙のうちに継続されている「プレー」に関する判決です。暗黙的に容認されている「プレー」によって当事者(ことに教育関係者)に法的責任を負わせる事態を回避し、また、裁判所がスポーツにおける慣習や文化に介入することを避けようとした判決です。
しかし、ハント事件は、「プレー」ではなく、「ドーピング違反」という、競技をする「資格」に関する案件です。ドーピングは、MMAだけではなく、あらゆるスポーツにおいて禁止されているものです。プレー以前に競技をする資格がない者と試合をさせられることを法的に判断すべきではなかったのか、と疑問を覚えます。

この判決の結論が妥当かどうかはともかくとして、判決理由については議論の余地があるように思えます。この裁判官も、裁判所がスポーツに介入することを回避しようとしたのだと想像しますが、いずれにしろ、ドーピングがMMAの範疇(あるいはMMAにつきもの)であると考えられていることは残念でなりません。

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