MMAは本質的に不道徳か?

スポーツ哲学という領域の研究誌「Journal of the Philosophy of Sport」において、近年、MMAの倫理性に関する研究が発表されています。

Nicholas Dixon (2016)Internalism and externalism moral evaluation of violent sport(暴力的スポーツの内在主義と外在主義からのモラル評価)Journal of the Philosophy of Sport 43 (1):101-113

Steven Weimer (2017) On the alleged instrinsic immorality of mixed martial arts(MMAは本質的に不道徳か)Journal of the Philosophy of Sport 44(2): 258-275

前者は、先行研究における暴力概念を分析し、「内在主義(internalism)」という視点からスポーツにおける暴力の具体例を評価したのち、流血を伴うスポーツであるボクシングとMMAのモラル評価を行っています。両競技では、暴力(violence)は、内的資質である身体能力と倫理的美徳(鍛錬や勇気)に欠かせない構成要素であることを踏まえたうえで、こうした内的資質を成立させている実践それ自体に根本的なモラル上の欠陥がないかどうかを問う必要があるという問題設定をしています。両競技においては、脳損傷リスクが懸念され、法的規制でその危険性を最小化する正当な理由も存在します。さらに、ダメージを与える意図、そして、相手を傷つけるべき物として扱っている事実において、どちらの競技も倫理的に擁護できないと主張します。スポーツと暴力が不可分で、かつ根拠もある場合には、より広範な倫理原則に訴えて競技そのものが倫理的に擁護可能かどうかを判断すればよい、とする立場です。

 それに対して、後者は、相互が自発的に同意しているMMA選手の行為は、「一応」の道徳的な許容可能性を持ち、MMAが本質的に不道徳ではないと評価します。ただし、このことがこの競技を全面的に正当化するものではなく、選手の同意の「自発性」とこの競技の悪影響の可能性に関する問題があり、「一応」ではなくすべてを考慮した上で道徳的に許容可能であるという結論が仮にあるとして、それがどのような場合かを判断するための考察の必要性を説いています。

 1970年頃から現在まで、医学や倫理学の領域からボクシング廃止論が主張され、ボクシングを擁護する立場との議論を反映しつつ、これまでボクシングのルールが改正されてきました。MMAの人気が高まるにつれて、ボクシングに対するのと同様の関心がMMAに対して向けられてきています。ルールをより良いものにしていくプロセスの中で、様々な視点からの見解を参考にしていかなければなりません。

 なお、上の2つの論文を要約して紹介しましたが、どちらも内容が超難解で(特に後者)、超ザックリとしか紹介できません。もしかしたら解釈が間違っているかもしれません。あらかじめご了解ください。マジむずい。